今日は朝から細かな雨がやむことなく降り続いている。特に忙しいわけでもない雨の午後、真選組副長は手持無沙汰になり、
とりあえず刀の手入れを始めてみた。
ふと庭の方を向けば、雨を気にもとず局長が素振りをしているのが見えた。近藤らしいその姿に、土方は小さく笑った。
しばらくしてから再び庭の方を見ると、いつからいたのだろうか、自分と近藤の間に総悟が座っていた。気配を殺してやってきたのか、
全く近くに来たことに気付かなかった。総悟は外を向いたまま手を忙しそうに動かしている。
そう言われたので、近づいて総悟の手の中をじっと見てみた。その白い手の中には作りかけの藁人形が握られていた。
「……お前、また俺を呪い殺すつもりか?」総悟は土方の方を向きもせず、手の中の藁を人の形に変えながら言った。
「これは五寸釘ぶっ刺すためじゃありやせん。土方さんの体の自由を奪ってヒイヒイ言わせるためのモンでさァ」藁人形のひもを固く結んで、人型に作り上げた。
「もうこいつに呪術は施してありやすからね、あとはこれを完成さして中に土方さんの体の一部を詰め込むだけなんでさァ」そう言いながら総悟はポケットから怪しげな縮れ毛を取り出し、えいと藁人形の中に詰めた。
「これで土方さんの体は俺のものになるはずなんですけどねィ…」藁人形を抱きしめながら、総悟が土方を見上げる。しかし、土方の体には何の変化も見られない。
「……やっぱそんな呪いなんて、成功するわきゃねぇんだって」馬鹿にしたように笑いながら、土方は先ほどまで座っていた場所へと戻る。
「あ、待ちなせぇよ土方さん」総悟が立ち上がりながら藁人形を握りしめる。すると土方の口から、ぐえ、という声が漏れた。
「……ぐえ?」苦しそうな顔をした土方が振り向く。
「総悟……お前今、何した?」土方が首を押さえている。総悟は手の中にある藁人形を見てみた。自分の右手が藁人形の首を潰していた。 総悟は藁人形と土方の顔を交互に見つめ、藁人形の腕を曲げてみた。
土方の腕が曲がった。
腕が曲がったままの土方の顔を冷汗が伝う。逆に総悟の顔に嬉しそうなどす黒い笑みが広がった。
「土方さんの体、確かに俺のものになりやしたねい」総悟が藁人形をぺっと床へ投げ捨てた。同時に土方の体は畳へと勢いよく倒れこんでいった。
「いって!総悟、真面目にちょ、待てって……」突然のことに戸惑いながら、土方は起き上がろうとする。しかし、なぜか足が動かない。それに驚いているうちに、動かない部位が足だけではなく 体全体へと広がり、とうとう畳に横たわったまま身動きが取れなくなった。
「なっ……」どうにかこうにか眼を動かし総悟の方を見ると、藁人形を余った紐でぐるぐる巻きにしていた。
「これで、人形と同じように本当に動けなくなっちまったみたいですねィ」にやにやと腹黒い笑みを浮かべながら、総悟は土方を見下していた。
「……総悟、くん…放してくれないかな?」総悟は土方の上に跨り座り込んだ。
「ヒィヒィ言わせてあげまさァ」土方は、自分の血の気が引いていく音が聞こえた気がした。
「ほら、外に近藤さんいるし!な?!」涼しい顔で土方のスカーフを外し服を脱がし始める。いよいよ土方は焦り出した。
「やめて総悟クン!なんでもするから!なっ?!」露わになった土方の首筋に唇を這わせながら総悟は言った。
「痛くしやせんから。いつも土方さんが俺にしてくれるようにやってまげまさァ」その表情はまさしくドSのものだった。
土方の叫び声は強くなった雨足にかき消され、誰の耳にも耳に届くことはなかった。